8. 日本人女性の体格変化について

 きものは洋服と違って、反物(たんもの)と呼ばれる長い布を裁断してつくられます。

反物 断裁

 この裁断技術自体も、見事な日本の文化と感じるところですが、ここ数年、きものの業者さんから、「身長が高く腕の長い女性が増えて、従来からつくってきた反物のサイズでは対応できないことが増えた」と聞くことが増えました。
 たしかに日本人の身長は、世代をおうごとに伸びているというのが実感ですが、日本人の女性の体型変化はどうなっているのでしょうか。またいわゆる従来の反物のサイズで対応できない腕の長い女性はどれくらいいるのでしょうか。これをきもの健康学の観点から調べてみました。
 世界では、身長の高い国が多く存在します。Wikipediaによりますと、女性の身長がもっとも高い国はオランダで、平均身長170.3cmというからたしかに長身です。隣国の中国も韓国も女性の平均身長は160.1cm。日本の女性の平均身長は158cmで、世界では背が低い国のほうに属するようです。

 このように世界の中では低いほうの日本人女性の身長ですが日本の歴史をひもといて過去の日本人身長の推移をみると、いろいろと見えてくるものがあります。もともと日本に居住していた縄文時代の人たちは、低身長の人たちでした。当時の女性の平均身長は144cm、男性は155cmと言われています。しかし紀元前8世紀ごろに弥生時代が近づいて大陸からの渡来者が増えると、渡来者がいた地方での平均身長が伸び始めます。紀元前4世紀から紀元後3世紀ごろつまり稲作がはじまって女王卑弥呼が活躍した時代くらいまでは、男性の平均身長は163㎝、女性の平均身長は152㎝となりました。しかしのびた身長は、その後下がり続け、江戸時代後期には男性155㎝、女性143cmまで落ち込みます。
 その後急上昇した。明治時代に入ってからは日本人の身長は急激に増加しました。これは動物性たんぱく質を摂取するようになったことの影響といわれています。
そのようなことで。きものが今の形に定着した江戸時代後期から明治と現在では、男性・女性ともに15~16cmの身長の伸びとなっているわけですが、実はこの身長の伸びは、日本だけでなく世界的な傾向だといわれます。しかしながらその中でも日本人の身長の伸びが著しいことは明らかです。

女性の身長平均158cmを分布で見ると

 さて、では反物の裁断に困るほど背が高い女性はどれくらいいるのでしょうか。現在の日本人の女性の平均身長が158㎝ということは、現在女性の半数が身長が158㎝以上であり、163㎝以上は16%、169㎝以上も2.3%いると推定されます。大正・昭和初期の男性の平均身長は160cm程度ですので、大正・昭和期の男性より大きな女性が半数存在するということになります。

男女平均身長の推移

 一般的には腕の長さは身長に比例しますので、過去100年で日本人の男性・女性ともに身長が16cm程度のびたということは、裄(からだの中心から手首までの長さ)は8cm程度のびていると推定されます。さらに163㎝以上の女性が20代で16%いることから、これらの女性の裄は10.5㎝以上であると推定されますので、従来サイズの反物では足らない女性が多くなったことも納得されるところです。
 現在、多くのきもの店では、男性用の反物を用いるなどの工夫で腕の長い女性への対応をしているところですが、今後は身長の高い女性用の反物の開発なども必要になると思われました。