きもので辛いとして挙げられる筆頭が「帯が苦しい」です。1950年代のきものと健康影響の研究論文をみても、「帯の圧迫によって自律神経系が乱れる」「帯の圧迫によって肝臓が圧迫を受ける」といった結論が出されています。
しかし日常的に着物を着ている者から見ると、「着物の帯のおかげで背筋がのびて気持ちが良い」「腰痛の予防になるし、腰痛を起こしたときにはコルセットより具合が良い」など、きものの健康への良さの一つとして挙げられています。
この差はどうして起こるのでしょう?あるいは、どっちが本当なのでしょうか?
これを調べるために、圧シートセンサーを用いて「被服圧」を調べました。洋服着用の場合には、息を吸い込むとウエストのベルト位置に一致して、ベルト幅の圧迫帯が出現します。
最大圧34mmHgですから、多少の食い込み感があります。
一方、着物を日常的に着用している場合には、吸気時に帯揚げの紐による圧迫が最大21mmHgで、また腰骨の上と腹部中央の帯が接する部分に帯が乗っていることによる圧迫帯が見えますが、そのほかの部分の圧迫はなく、圧迫感としては感じられません。
ところが、着物を日常的に着用していない場合には、肋骨面のほとんどすべてのところで強い圧迫がみられ、最大圧 47mmHgにも達していました。また帯揚げなどのひもの部分に多数の圧迫がみられ、これでは呼吸をするのも苦しいだろうという状態した。
どうしてこんなに苦しい着方をしているのでしょう。それは、自分で着ないからです。きものを日常的に着用していない人たちは着付けをしてもらうわけですが、自分で着用しないので適度な帯圧を自分で調整することができません。「大丈夫ですか」と着つけする人に尋ねられても何が大丈夫かわからないわけですから「はい、大丈夫です」と答えてしまいます。着つけるほうも、ゆるゆるでは後から着崩れなどで困ることになってはときつめにしめてしまう。これが着つけない人の帯が苦しいという結果になっていると思われます。
本来、帯は「苦しい」のではなく、「ここちよい」ものです。極論すれば、下手な着方が、「きものは苦しい」をつくっていたのです。重い帯が腰骨の上に乗ることで、圧迫感なく重さを支えることができます。適切な帯圧は、ここちよささえ与えてくれます。猫背になると肩こり・頭痛が起こりやすくなるだけでなく、腹部圧迫による消化機能低下や、腰への負担による腰痛も生じやすくなりますが、幅がある帯をつけることで猫背になることも防がれます。上手に帯を利用してゆきたいものです。
ここで、冒頭に述べた過去の研究論文に触れたいと思います。いずれも結論は帯の圧力が大きく、非健康とのことでした。とくに胸部圧迫が大きいことが非健康との判断につながっていました。しかし詳細に読むと、いずれも15分など短時間の着用であり、もっとも長く着用したものでも3時間でしかありません。そしていずれも学生を対象とし、着つける人が別に雇用されての研究でした。つまり着物を着慣れない人が人に着つけてもらっての研究であり、自律神経に悪影響があったことも頷けます。もし自分で帯をつけていれば結論が違っていたことでしょう。
では、どうすれば帯の苦しさを防ぐことができるでしょうか。まずは自分で帯をしめること、です。練習して自分で帯をつけるようになれば、苦しいしめかたはしません。次に、帯揚げのひもは、弾力性のある素材を選びたいものです。帯揚げのひもは背中のお太鼓の部分から前にまわして結びますので、途中で肋骨部分を通過します。日常的に着物を着用する人でも帯揚げのひもに一致した圧迫がみられますので、ぜひ素材の工夫をしてください。
そして最後に。帯の適正な位置は腰骨の上と理解する(無理に高い位置にしない)ことです。
もともと帯は、腰骨の上に乗るようにできています。腰骨の上に帯を乗せれば、それ以上ずり落ちることもありませんから、ゆるい結び方でも安定します。両腰骨と下腹部で支えるという形がもっともよい形であり、見た目もですが健康的にも良いのです。最近は脚を長く見せる意味でも、帯を高い位置で結ぶ傾向にありますが、健康という観点からはお勧めできるものではありません。